「ビギン・ザ・ビギン」で「黄昏のビギン」を


先日の、作詞家・永六輔死去のニュースに触れ、彼の作品リストを見ていたら「黄昏のビギン」に目が留まりました。

「黄昏のビギン」とは?

【楽曲data】
アーティスト名:水原弘
タイトル:黄昏のビギン
作詞:永六輔
作曲:中村八大
発売:1959年(昭和34年)

この曲は元々、映画のためにワンコーラスだけ作られたそうで、1959年(昭和34年)に水原弘「黒い落葉」のB面として発売されました。「黒い落葉」の前作が大ヒットしたあの「黒い花びら」ですから、あやかって(?)「黒い」シリーズとして作られたのでしょう。でもそれほど話題にはならなかったようです。さらにそのB面だった「黄昏のビギン」は多くの人の耳に届くこともなく、昭和の時代にはそのまま忘れ去られてしまったようです。

(上の画像の真ん中左が「黒い落葉/黄昏のビギン」です)

ちあきなおみの「黄昏のビギン」

そんな「黄昏のビギン」ですが、1991年(平成3年)、ちあきなおみに取り上げられることにより、息を吹き返しました。ちあきなおみでこの曲を知ったという人のほうが、水原弘で知った人よりたぶん多いのではないかと思います。

実は私自身ははっきりとした記憶がないのですが、ちあきなおみ版の「黄昏のビギン」は多くのCMにも取り上げられたと、wikipedia(2016年7月30日 (土) 00:26版)にありました。

1991年には京成電鉄の「スカイライナー」、1999年 – 2003年には四期連続でネスカフェの「プレジデント」、2011年にはトヨタ自動車の「ReBORN DRIVE FOR TOHOKU」と、数多くのCMで使用された。

2000年にはちあきの作品の「かもめの街」と「黄昏のビギン」がカップリングで収録されたバージョンが発売され、オリコンチャートで週間86位にランクインした。

こうして「黄昏のビギン」に皆の目が集まったことで、さらに驚きの新事実が明かされます。実はこの曲の作詞は永六輔ではなく中村八大だったと、後に永六輔が暴露したのだそうです。
そのあたりの話は、「黄昏のビギンの物語 奇跡のジャパニーズ・スタンダードはいかにして生まれたか」佐藤剛著に詳しいです。

「ビギン・ザ・ビギン」と「黄昏のビギン」

ところで。「黄昏のビギン」の「ビギン」とは一体何でしょうか。

ビギンと聞くと思い出すのは、

・begin (始めるという意味の英語)?

・BEGIN (石垣出身のアコースティックバンド)?

いいえ、違います。「黄昏のビギン」の「ビギン」とは、

beguine

ラテンアメリカ音楽のリズムの一種。4分の4拍子で,西インド諸島のマルティニーク島の舞曲であったが,C.ポーター作曲の『ビギン・ザ・ビギン』によって広く知られるようになった。出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

音楽のリズムのことだったんですね。

なぜそうだと分かるかというと、オリジナルの水原弘の「黄昏のビギン」の編曲がまさにこのビギンのリズムで作られているからです。

マルティニーク諸島で生まれたビギンのリズムと、後に有名になったコール・ポーターの「ビギン・ザ・ビギン」でのビギンのリズムは実際にはちょっと違うのですが、今となってはコール・ポーターの「ビギン・ザ・ビギン」こそがビギンのリズムだという認識が広まっています。

言葉で書くと、ウタータ・ウタ・ウタ とか ズチャーチャ・ズチャ・ズチャ とかいう感じですね。音譜で書くと

♪♩ ♪♫♫

ということですね(⇒文字化けしてしまったらすみません)

このリズムでスローなダンスを踊ると、それはそれは品良く流麗な雰囲気になります。
日本語で歌っている、越路吹雪の「ビギン・ザ・ビギン」、とっても素敵ですよ。

歌い出しに注目したい

「黄昏のビギン」は今となっては昭和歌謡のスタンダード・ナンバーになってしまったので、たくさんのアーティストに愛されカバーされています。聴き比べると、リズムとしての「ビギン」を尊重したものや、全く別の解釈で作られているものなど多種多様で面白いです。

わたしの好みから言わせてもらえば、やっぱり「黄昏のビギン」は、編曲がどうであろうと、根底にというか背景にはビギンのリズムを感じながら歌っているものがイイ!と思います。逆に、歌い出しのところで、四分休符のあとパキパキと八分音符で

「ウン(四分休符)ア・メ・ニ・ヌ・レ・テ・タ-」というふうに八分音符の連続が強調され過ぎて始まると、ちょっとだけがっかりします。(本当に好みの問題なのですみません!)

ちなみに、リバイバルヒット火付け役のちあきなおみ版「黄昏のビギン」は、編曲こそシンプルにアルペジオギターで始まってますが、ちあきなおみの歌い出しはシンコペーションで

「ウ(八分休符)あ~めにぬれてたー」と歌っているので、その先にかすかなビギンのリズムを感じ取ることができ、ふんわりと柔らかい、流麗なメロディに酔いしれることができるのだと思います。

ちあきなおみの「黄昏のビギン」を堪能した後に水原弘版を聴くと、言っていることが矛盾するようですが、バックで延々と繰り返されるビギンのリズムがちょっとうるさくも感じられてしまいます。

「黄昏のビギン」はやっぱり、スロー気味に、ひそやかにビギンを感じさせつつ、あまり拍子は強調し過ぎず、でも歌い手はシンコペーションを少し意識して柔らかく歌う、というのが一番しっくりくるのかなあと考えていますが、いかがでしょうか。


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