一発屋様にリスペクトを込めて♡ 今回は新谷のり子の「フランシーヌの場合」をご紹介します。
実話から生まれた「フランシーヌの場合」は80万枚の大ヒット
【楽曲data】
タイトル:フランシーヌの場合
歌手:新谷のり子
作詞:いまいずみあきら (作詞も大半は郷伍郎作とも言われています)
作曲:郷伍郎
発売:1969年(昭和44年)6月
「フランシーヌの場合」は実際に起きた事件を題材としています。シングルレコードに詳しく書かれていたような気もしますが、よくおぼえていません。ただ、焼身自殺した女性のことを歌った歌だということだけは軽いショックととともに私の記憶に刻まれています。
歌詞はこう始まります。
♪フランシーヌの場合は あまりにもおばかさん♪
【パリ30日発AFP】三十日朝、拡大パリ会議の会場から二百メートルほど離れた路上で、三十歳の女性がシンナーをかぶって焼身自殺した。フランシーヌ・ルコントさんというこの女性はベトナム戦争やナイジェリア内戦に心を痛め、自殺したときもビアフラの飢餓の切り抜きを持っていた……。(1969年3月31日夕刊)
出典:[うたものがたり]フランシーヌの場合/1 パリの地で あなたの影を探そうとした(1993/12/13 毎日新聞 夕刊 )
当時の新聞報道はAFP通信の簡単な記事のみでしたが、事件から数カ月でレコードが発売されたことや、その発売日(6月15日)が安保闘争で東大生の樺美智子が命を落とした日でもあったためか話題を呼び、「フランシーヌの場合」はやがて全国的なヒットとなってゆきます。
♪ホントのことを云ったら オリコウになれない♪なんて、みんな分かっているけど口には出せないことが歌詞にずばりと書かれていて、そのことも、人の心に何かしらの引っかかりを作ったのかもしれません。
しかし、当時の学生運動家たちからすると、商業的な立場でこの曲に関わった歌手の新谷のり子や作者の郷伍郎には批判的な声も少なくなかったそうです。
「反戦歌手」。レコード会社がレッテルを張った。 歌はヒットしたが、新谷さんは精神的に二重生活を強いられる。テレビ局と大学構内のバリケードを行ったり来たり。学生たちは「商業主義に乗るな」と言い、レコード会社は「運動のことはしゃべるな。色メガネで見られると売れなくなる」とクギを刺した。
出典:[うたものがたり]フランシーヌの場合/3 あなたの死んだ日、初めてデモに参加(1993/12/15 毎日新聞 夕刊 )
「フランシーヌの場合」という曲と歌手・新谷のり子は、この時代ゆえ注目され大ヒットし、この時代ゆえ一発屋にならざるを得なかった。そういうことだったのだと思います。
♪3月30日の日曜日、パリの朝に燃えたいのちひとつ。フランシーヌ♪
歌詞が多くを語らないからこそ、心の底に何かどすんと重いものを落とされたような余韻が残る、そんな歌でした。